著者
中森 弘樹
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 = Kansai sociological review : official journal of the Kansai Sociological Association (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.82-94, 2013

本稿の目的は、失踪者の家族の視点から「失踪」という事態を考察することである。これまで自然災害や海難事故、戦争状況下において生じる行方不明が一般的に注目を集め、捜索の対象となってきたのに対して、それ以外の状況で人が行方不明になるという事態はあまり着目されてこなかった。本稿では後者の事態を「失踪」として定義する。そして、残された家族たちが不確定な失踪者の生死をいかにして判断するのか、またその際にいかなる困難を抱えるのかを死の社会学の視座を用いて明らかにすることで、失踪者の客観的な死の危険性からは説明できない「失踪」の問題性を描き出すことを試みる。上記の目的に基づき、本稿では失踪者の家族にインタビュー調査を実施・分析した結果、以下の諸点が示唆された。まず、残された家族にとって失踪者の生死の線引きを行うことは困難であった。そのような状況では、たとえ失踪者の死の危険性が明らかでなくとも、家族たちは失踪者の生死が不確定であることに対して長期的な心理的負担を抱えることがあった。また、失踪者の生死の線引きには、家族たち自身の生死の判断のみならず、警察等によって客観的に判断される失踪者の生死や、失踪者の法的な生死といった異なる生死の次元が関わっていた。これらの生死の諸次元が食い違うことで、捜索活動の困難や失踪をめぐる社会手続き上の負担、ならびに失踪宣告をめぐる葛藤といった問題が家族たちに生じていた。
著者
洪 ジョンウン
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 = Kansai sociological review : official journal of the Kansai Sociological Association (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.3-16, 2015

本稿は、1960年代において在日朝鮮人女性が「女性同盟」の活動を通じて獲得した民族アイデンティティの特徴について考察することを目的とする。北朝鮮を支持する「朝鮮総連」の傘下団体である「女性同盟」は、戦後、最も古い歴史を持つ在日朝鮮人女性団体である。北朝鮮への帰国運動が始まったばかりの1960年代初頭、大阪では「女性同盟」の活動家によって朝鮮学校に「オモニ会」が発足され、公的領域においてもオモニ役割が遂行されるようになった。北朝鮮の影響を受けて1962年に開かれた「オモニ大会」ではオモニとしての役割が公式に強調され、北朝鮮の「革命的オモニ言説」が総連系在日朝鮮人社会に広がる契機となった。「女性同盟」は「康盤石女史を見習う運動」を行い、金日成の母である康盤石を理想化した。康盤石は自ら革命家になるよりも、革命家の子どもを育てることに重点を置く女性像であったため、「女性同盟」の活動家にとって良妻賢母主義を批判的に克服することは難しかった。一方、多様な女性闘士が登場する『回想記』シリーズを用いた学習では、自ら革命の闘士となった女性像を探り出す転覆的読み方の試みが行われ、新たな遂行性の可能性を見せた。1960年代総連系在日朝鮮人の民族運動はジェンダー化されていたため、それに参加した女性主体は、オモニ役割の遂行によって、単なる民族アイデンティティではなく、オモニというジェンダー化された民族アイデンティティを遂行的に構築・再構築したといえる。